« 前へ | Main | 次へ »
コレクション−その光と影−15
出国検査と白い粉事件

1980年代、世界のコレクションは、ミラノ・コレクションからスタートし、
ロンドン、パリ、ニューヨーク、そして東京の順で行われていた。そして通貨も現在のユーロではなく、各国はそれぞれ独自の通貨を使用していた。

当時、日本から海外のコレクションの撮影に行くのは私一人で、そのため今では到底考えられない、日本を代表する複数の新聞社や通信社の撮影を一手に引き受けていた。裏を返すとまだファッションというものが市民権をもたず、認知度も低かったということだろう。
1982/83aw-KENZO Paris

パリコレを例にとってみても、文化面の片隅に小さな写真が1枚と、開幕を告げる短い記事が載っているだけの寂しいものだった。
だからこそマスコミ各社が同一人の写真を使ったところでさほど気にもならなかったし問題もおきなかったのだろう。
ただしここでお断りしておくが、各社がおなじ写真を使用していたのではなく、それぞれは別カットの写真を使用していた。

話をショーに戻そう、2月から3月にかけて行われる秋冬コレクションの比較的大きなショーでは演出で、雪を降らすシーンが時折ある。
前にも書いたが90年代後半まで、ステージサイドで撮影しているカメラマンにもモデル同様、雪は容赦なく降りかかる。そしてこの雪がただものではない。


1982/83aw-KENZO Paris (雪が舞うシーン)

80年代のショーで降ってくる雪は、石灰のような小麦粉のような雪で、一度頭や服についたものは払い落とさなければならない厄介なものだった。



2006/07aw-D&G Milano (ステージにセットされた雪のシーンと舞う雪)

現在のショーやイベントで使われている雪は本物の雪同様、服や体についてもほんの数秒で自然に消えてしまうし、何の害もない。



2007/08aw-CHANEL Paris (近年のショーでの雪が舞うシーン)


あれは確か80年代中半だったと思うが、ミラノ、ロンドン、そしてパリコレの撮影を終え、某ファッション専門誌の取材で再度ミラノへ向かう、パリのC.ドゴール空港の出国検査場で起きた。
一泊だけの撮影のためスーツケースをパリのホテルに残し、簡単な手荷物とカメラケースをいつものようにベルトコンベアーに載せ、私がゲートを通り過ぎようとしたそのときだった。
シャルル・ドゴール空港-T-2B

ゲートの先に立っていた、税関員らしき彼と視線が合うと、無表情の彼は自分の顎を少し右肩の方にもちあげると、私にこっちに来いとばかりに無言で合図した
私は一瞬驚いたが何のやましさもないので、手荷物とカメラケースをもって素直に彼に従った。すると彼は相変わらず無言でカメラケースの蓋を開ける仕草をすると、パスポートと私が腰につけてるポシェットをテーブルの上に置くよう合図した。
シャルル・ドゴール空港-T-2B

間仕切りされたケースのなかにはカメラとレンズが整然と並んでいた。そしてそのひとつひとつを手に取ってチェックしていた彼の目が一瞬かたまった。ケースの中に、昨夜のKENZOショーで飛び散った白い粉を発見したのだ。そしていきなり自分の人差し指にその粉をつけるとおもむろに舌先へともっていった。麻薬とでも勘違いしたのか、、、
私にはそんな彼の真剣な表情の方が滑稽にもおもえてならなかった。

そして検査はなおもつづき、ポシェットから日本円、米ドル、イタリアリラ、イギリスポンド、そしてフランスフランと5ケ国の紙幣を見つけると彼は何を思ったのか、周囲に居た仲間たちを呼び、近くの部屋へと私を連れて行き、着てるものを脱ぐようにと言った。
4,5人税関員に取り囲まれたパンツ一枚の私は、このときばかりは自分の知っている限りの英語とフランス語で説明した。白い粉のことは相手もすぐにわかったが、何カ国もの紙幣を持っていた事の方がむしろ彼等には怪しまれたようだ。

かくして疑惑が晴れ無罪放免となった私は、辛うじてミラノ行きのフライトに間に合うことができた。
 2015/01/09 12:16  この記事のURL  / 

« 前へ | Main | 次へ »

プロフィール


大石一男 (おおいしかずお)
KAZOU OHISHI


写真家・フォトジャーナリスト

長崎市生まれ。大学卒業後、テレビ番組の制作に8年間携わる。1979年に初めてパリコレクションを撮影。以降、ミラノやロンドン、ニューヨーク、東京、ソウルと世界のコレクションを長年に渡り撮り続ける。 東京ファションウィークには、第1回目からオフィシャルカメラとして参加。

2013年、第31回「毎日ファッション大賞」鯨岡阿美子賞受賞。著書に「カメラマンのパリコレクション」(読売新聞社)、おもな写真集に「Paris collection 1981〜2000」(新潮社)がある。

大石一男 オフィシャルサイト
http://www.kazouohishi.com/


2015年01月
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
最新記事
月別アーカイブ
カテゴリアーカイブ