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コレクションーその光と影−3
ステージのパネル倒壊

前回、客席と楽屋とを遮断するパネルに開いた”穴”の話をしましたが、今回は、まさしくそのパネルそのものの話です。

パリコレでは1980年代の一時期、ルーブル美術館の中庭にたてられた、大中小の3つのテントで、およそ10日間にわたってコレクションが開催されていた。
そしてそのシーズンのトリ(最後)を飾るデザイナーは、サンローラン(YSL)かケンゾー(KENZO)と決まっていた。

ルーブル美術館(まだピラミッドが建っていない)

ルーブル美術館とピラミッド

パリコレは一日に平均8〜10のショーがルーブルを中心にパリ市内のあちこちで行われる。そしてカメラマンたちは決まって最終日に、そのシーズンでの互いの健闘と、次回での再会を願って記念写真を撮るのが恒例となっていた。

本来は最後のショーの直前に写真を撮るのだが、本番前の慌ただしさや、カメラマンの中にはコレクション終了と同時に帰国する者もいる。また各人によって撮影メゾンが異なるため、極力皆がルーブルに集まる時間帯にテントの側で撮影していた。

ルーブル中庭に建てられた両サイドに見える青テントとプレスオフィス

そしてそのシーズンのトリは ”KENZO” のショーだった。

いつもは屋外で撮影する記念写真をこの日は前後のショーの関係で、屋内の、それもこれからショーが始まろうとするステージ上である。

ルーブル中庭での記念撮影

ショー本番前のステージには、汚れないように事前に布地のカバーがかけられている。カメラマンは普段は上がる事のないそのステージに、少し照れくさそうに上がって行った。
そして皆がステージ上に勢揃いすると、突然どこからか「ジャポネ(日本人)はいないか?」と叫ぶ声がする。誰かが「カズがいる!」と言うと、
「カズ、お前は日本人だからケンゾーを知ってるだろう!?、折角だからケンゾーと一緒に記念写真を撮ろう!」と言うのである。
私は一瞬、躊躇ったが皆の勢いに押されるまま、しかたなく楽屋のケンゾーさんのもとへ行った。

当時既にケンゾーは、世界の田賢三としてパリコレでも超人気デザイナーとして活躍していた。そして何よりも、その素朴な人柄が世界中の人々から愛されていた。まさに名実共に世界のケンゾーである。

幸い、私はケンゾーさんとは面識もあり、パリの自宅にも招かれたこともあったのでさほどの緊張感はなかった。
カメラマンとの記念撮影をお願いすると、一瞬はにかんだ様子をみせたが快く応じてくれた。

しばらくしてケンゾーが楽屋から現れると、ステージ上のカメラマンは興奮し皆がケンゾー、ケンゾーと叫び喜びを表していた。

ショー開始には未だ早く客席には一部の人しかいなかったが、それまで会場でカメラマンの騒ぎを冷ややかに見ていた人たちが、ケンゾーが現れると我れ先にと競ってステージに上がってきた。
いつもは写真におさまるだけの私だったが、このときばかりはケンゾーさんに声かけした手前、写真まで撮らされるはめになってしまった。

そして事件はまさしくそのときに起こった。

応急処置の布を片手にケンゾーさん(前列中央)との記念撮影

大勢の人達で狭いステージ上は脚の踏み場もなく、人々が寄りかかった重圧でパネルが突然倒れてしまったのである。するとそれまでステージ上にいた人達は蜘蛛の子を散らすかのように皆逃げ出してしまった。

無惨にも倒れてしまったパネルの向こう側には、これから始まるコレクションの作品が客席からも見ることができた。

事の重大さに、楽屋から責任者が顔を真っ赤にして飛び出してくると、ものすごい剣幕で私のところへ来て怒鳴りだした。
その一部始終を見ていたケンゾーは責任者のところへ来ると、
「彼が悪いんじゃない」と私を庇うと、応急処置を施すよう指示し、ステージに残ったカメラマンたちと一緒に記念写真におさまってくれた。

           昨年末、来日の際の記念写真

幸い倒れたステージのパネルは、ショー開始に少し遅れただけで復旧することができた。

この一件でカメラマンはますますケンゾーのことを尊敬し、好きにならずにはいられなかった。







 2014/08/11 17:30  この記事のURL  / 
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プロフィール


大石一男 (おおいしかずお)
KAZOU OHISHI


写真家・フォトジャーナリスト

長崎市生まれ。大学卒業後、テレビ番組の制作に8年間携わる。1979年に初めてパリコレクションを撮影。以降、ミラノやロンドン、ニューヨーク、東京、ソウルと世界のコレクションを長年に渡り撮り続ける。 東京ファションウィークには、第1回目からオフィシャルカメラとして参加。

2013年、第31回「毎日ファッション大賞」鯨岡阿美子賞受賞。著書に「カメラマンのパリコレクション」(読売新聞社)、おもな写真集に「Paris collection 1981〜2000」(新潮社)がある。

大石一男 オフィシャルサイト
http://www.kazouohishi.com/


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