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コレクションーその光と影−12
ファッション・ショーとドレスコード

長年、コレクションの撮影をしていると、数年、いや正確には十年周期くらいで送られてくる招待状に、カメラマンもショーに出席の際,服装はフォーマルもしくはダークスーツでお願いしますというのがある。

コレクションが最も華やかだった80年代には、1シーズンに一回は必ずといっていいほど、ショーの後にパーティがあり、カメラマンといえども服装には気を遣ったものだが、近年ではそうしたこともあまりなくなった。
1984 s/s Kenzo Paris coolectionで盛装したカメラマン

海外のコレクションでは、そのブランドを買い付けしているバイヤーはもちろん、ジャーナリストもデザイナーに敬意を払い、コレクションの度にそれぞれのデザイナーやブランドの服を身につけてショー会場に現れる。前回書いた、客席最前列の人たちはその典型である。
コレクションはほぼ1〜2時間おきに行われるため、前後に有名ブランドが重なると、ショーが終わるたびにホテルへともどり、次のショーの服に着替えてまたコレクション会場へと出直すのである。
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ヴォーグ・イタリアの元名物編集長、故アンナ・ピアッジさん(Anna Piaggi)
(カール・ラガフェルド(Karl Lagerfeld)の広告塔的存在だった)

空港で著名なジャーナリストやバイヤーとよく出くわすが、彼女たちのほとんどが最低3〜4個の大きなスーツケースを持ち運んでいるのを見かける。

しかしコレクションを撮影するカメラマンは、そのほとんどがジーンズにTシャツ、その上にフードつきのブルゾンというのが一般的な服装である。
ショーが終わる度に重い機材をもってかけずりまわり、次の会場に着くころには体中からは汗が吹き出て、服の腰や肩は持ち運ぶ機材で擦り減っている。要するにカメラマンにはフォーマルやダーク・スーツで撮影などというのはかなり酷で、似合わないのである。
まして雨が多いパリでは、両手は機材でふさがり傘はさせない、せめて頭だけはとフードつきのブルゾンとなる。
2009s/s-Chanel グラン・パレ(Grand Palais)でのカメラマン席

話は古くなるが1983年10月、「ケンゾー、パリ・コレ10周年」と銘打った
1984年春夏コレクションが、パリ郊外にあるお城、”シャトー・ド・メゾン・ラフィット”で夜9時からというのがあった。
歴史を感じさせる重厚な石造りの城に、訪れた人々は感動と興奮でショーが始まる前からまるでお祭り気分であった。
シャトー・ド・メゾン・ラフィット (Chateau de Maisons Laffitte)
ゲートと全景

そしてショーの後にパーティもあるせいか、会場はドレスやタキシードで盛装した人々で、まるで晩餐会の雰囲気さえ漂っていた。

やがてショーがはじまり、フィナーレでケンゾーがステージに姿を現すと、いきなり会場の外でショーの音楽を打ち消さんばかりの大音響とともに、晩秋のパリの夜空に美しい花火が舞った。この意表をつく演出に訪れた人々は誰もが興奮し喜んだ。
そして華やかなお祭り騒ぎを終え家路へつく頃は、時計の針はすでに深夜の2時をまわっていた。 

また2005年春夏のシャネルのショーでは、送られてきた招待状にカメラマンは黒のスーツで出席してくださいというのがあった。突然のことで用意してなかったカメラマンの多くは、ショー会場に入れない心配からか、急遽近隣のスーパーへと黒のスーツをもとめて皆が駆け込んだ。

(左)2005s/s-Chanel Paris Collection (右)パパラッチ

黒のスーツ着用の理由は、当時、世間を騒がしていた、かのパパラッチよろしく、フィナーレでデザイナーのカール・ラガーフェルドが現れたら、黒スーツの大勢のカメラマンがステージに上がり、カールを追いかけまわすという演出の一環だった。
(左)フィナーレのカール・ラガーフェルド( 右)パパラッチに扮したカメラマン

私と同じホテルに泊まっていた日本人カメラマンMさんも、近くのスーパーで黒いジャケットを買うはめになった。もちろんデザイン、素材の善し悪しは論外で、いかに安価でそれらしきものを買うかだけである。
店には既に仲間のカメラマンがジャケットを物色していた。やがて手頃なジャケットを見つけ、次はパンツとなったが日本と違って裾直しに2〜3日はかかるという。

私が、「黒いパンツが2本あるから、俺のを履いてみたら?」というと、
「入るわけないですよ!」とすかさず言葉がかえってきた。確かに彼と私とは体型が一回り違う。しかし私は自分の腰回りが大きいのを分かっていたから多分入るのではと思っていた。
そしていったんホテルへ戻り,私が履いているパンツを試着してみることにした

ロビーから近い彼の部屋で、「絶対、入ると思うよ!?」,
「いや〜、無理でしょう!」とふたりで笑いながらお互いがパンツを膝下まで下ろした瞬間、突然、部屋のドアが空き、掃除機をかかえたおばさんが現れた。
私たちも驚いたが、それよりも掃除のおばさんはパンツを下ろした男ふたりにもっと驚いて、ただただ「パードン、ムッシュ、パードン、ムッシュ!」(ごめんなさい)と繰り返すばかりで顔を赤くしてそのまま帰って行ってしまった。

通常は掃除の際、ノックして入るのだが、いつもは撮影で私たちが居ない時間帯だったため、おばさんもそのつもりで入ってきたのである。

翌日からその掃除のおばさんは私たちふたりの顔をみると、少し冷ややかな顔で笑っているかのように見えた。
きっと私たちをゲイだと思っているに違いない。

やはりコレクションを撮影するカメラマンにはジーンズとTシャツが一番で、スーツは無縁のものかもしれない。
 2014/11/01 23:28  この記事のURL  / 
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プロフィール


大石一男 (おおいしかずお)
KAZOU OHISHI


写真家・フォトジャーナリスト

長崎市生まれ。大学卒業後、テレビ番組の制作に8年間携わる。1979年に初めてパリコレクションを撮影。以降、ミラノやロンドン、ニューヨーク、東京、ソウルと世界のコレクションを長年に渡り撮り続ける。 東京ファションウィークには、第1回目からオフィシャルカメラとして参加。

2013年、第31回「毎日ファッション大賞」鯨岡阿美子賞受賞。著書に「カメラマンのパリコレクション」(読売新聞社)、おもな写真集に「Paris collection 1981〜2000」(新潮社)がある。

大石一男 オフィシャルサイト
http://www.kazouohishi.com/


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