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【大人の】金の斧・銀の斧【不条理】
むかしむかし、あるところに、木こりのおじいさんが住んでいました。

おじいさんは毎日山に入って、斧で木を切っています。

おじいさんが使っている斧は、古い古い、銅でできた斧です。

ある日、いつもどおり山の中を歩いていたおじいさん。うっかり躓いて転んでしまいました。
そのはずみで、手に持っていた斧がコロコロと転がり、池に落ちてしまいました。

それ以外に斧は持っていません。

斧がなければ仕事になりません。

大切に大切に使ってきた斧です。

「どうしよう」

おじいさんは池の中を覗き込みました。

池は深く、斧は見えません。

おじいさんは困り果ててしまいました。

すると、ピカピカと池が光り、女神さまが現れました。

「オマエが落としたのはこの金の斧か?」

女神さまは、見たこともない神々しい輝きを放つ黄金の斧を手に持っていました。

「ち、ちがいます」

おじいさんが驚きながら、やっとの思いでそう答えると、女神さまは、

「そうか」

と言って、じゃぶん、と池の中に潜っていきました。

おじいさんが呆然としていると、再び池がピカピカと光り、女神さまが現れました。

今度手にしていたのは、雪のように白く輝く、銀の斧でした。

「オマエが落としたのはこの銀の斧か?」

おじいさんは、困ってしまいました。

「どうしよう。銅の古い錆びきったボロ斧なんだけど、
もし、違うって言ったら、女神さま、また池に潜って取りに行くのかな。
それは申し訳ないなぁ。次が絶対俺のとは限らないし、その都度手間かけさせるの、悪いよなぁ。

でもこんなピカピカの斧でいいよって言ったところで、おれにぁ似つかわしくないし、
そもそも取られちゃうかもしれないし、ていうか、ご近所の目だって恐ろしいや。
いきなりおいらがこんな斧持ってたら、叩かれそうでいやんならぁ。

ってか、いったいどこのどいつだよ、こんな高価な斧を何本も落としやがって。
金持ちってのは、モノを大事にしないのかよ。
おかげでおれはこんな目にあっちまってら。

かといって、斧がなけりゃあおれぁ野垂れ死んでしまう。
しかしどうしよう。せっかく親切に拾ってくれた女神さまに、コレ以上の迷惑はかけられないよなぁ。
女神さまだって忙しいだろうし、俺のボロ斧ごときに、手間も時間も取らせたら、申し訳ねぇし……」


困り果てたおじいさんは、しかたなしに「はい、そうです」と答えました。

すると女神さまは言いました。

「オマエは嘘つきの悪い木こりだ。もう斧は返してやらん」

女神さまはそう言い放つと、しゅるしゅると斧とともに池の中に消えていってしまいました。

ムダに希望をつかまされたうえ、ムダに気を使ったばかりに、ムダにディスられ、たつきも失い、おじいさんは途方に暮れてしまいましたとさ。

せっかく気を遣っても、人に伝わるとは限らないのですね。

終わり。
 2016/10/19 10:08  この記事のURL  / 


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