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H博士のこと

 わたしが、H博士と初めて出会ったのは、学会のセミナーでのことだった。若手研究者の発表を厳しく批判するその姿は、いかにも斯界の長老という風格であり、今なお内に向学心と探究心の炎を激しく燃やしているといった風だった。
 H博士は、今では繊維メーカーであることをあまり主張したがらなくなってしまった綿紡績の出身であり、そのメーカーの繊維事業の一枚看板とも言える技術の生みの親だということを、わたしはその時初めて知った。
 さて、H博士は、一流の技術者であると同時に、なかなかのオーガナイザーである。ユニークな企画を次々と学会に提案する。なかには、繊維工学や高分子工学などだけでなく、経営学や心理学すらも取り込んでいた。
 先日、久しぶりにH博士に学会で会った。やっぱり若手研究者の研究に対してこっぴどくやっている。教育的指導の甲斐あってか、この若手研究者は奨励賞を受賞した。それに対してH博士は「あんなのに賞をやっちゃダメだよ」と。パーティー会場で受賞を知らされた本人を捕まえると、H博士は、またもや会場の奥で延々とダメ出しし続けていた。
 その姿を見て、わたしは、学問の道の厳しさと同時に、“教える”長老と“教わる”若手の関係を、麗しいと思った。(M.U)
2008年06月03日(火)  06:30  / この記事のURL