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大原總一郎のこと

 先日、このブログでクラボウの2代目社長にして倉敷レーヨン(現クラレ)の創設者、大原孫三郎について書いた。その大原孫三郎に関して、城山三郎が評伝小説『わしの眼は十年先が見える―大原孫三郎の生涯』(新潮文庫)を書いている。そのなかで城山三郎は、孫三郎が後世に残したもので最高の成功作は、息子・大原總一郎であるという。この指摘は、実に面白い。
 總一郎は、クラレの2代目社長として、ビニロン国産化への奮闘など、日本繊維産業史にその名を特筆大書される存在だが、一経営者である以上に、一人の文化人であった。柳宗悦の民芸運動に共鳴し、孫三郎から受け継いだ大原美術館で従来の西洋名画だけでなく、民芸品コレクションを充実させた。また文筆家としても知られ『大原總一郎随想全集』全4巻が福武書店(現ベネッセコーポレーション)から刊行されている。總一郎の評伝として、随想全集の編集者であった井上太郎が『大原總一郎―へこたれない理想主義者』(中公文庫)を著し、總一郎の人物像をよく伝える。
 その總一郎だが、晩年に東京大学経済学部で講師として「産業企業論」の講座を担当した。その講義を基にまとめられたのが『化学繊維工業論』(東京大学出版会)である。これは単なる殿様芸としての研究ではない。レーヨン産業の起源から説き、各国の発展史というマクロ的視点から出発し、最終的には日本の合繊メーカーの経営資料を基に、化繊産業の問題点を洗い出すというミクロ的視点にまで達する本格的研究である。のちに總一郎は、この『化学繊維工業論』で東京大学から経済学博士号を授与される。経営者、そして文化人でもある總一郎は、経済学者としても認められたわけだ。
 ちなみに、彼の素質を認め大学で講座を持つことを依頼したのは、当時の東京大学経済学部長だった脇村義太郎教授である。繊維関係者から見れば、元東洋紡専務で元新興産業社長、現在は高野連会長を務める脇村春夫氏の伯父といえば、分りやすいだろう。(M.U)
【写真は、大原總一郎『化学繊維工業論』と、井上太郎『大原總一郎―へこたれない理想主義者』】

2008年02月20日(水)  07:23  / この記事のURL