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断機の戒め〜妥協許さぬモノ作り〜

 川島織物セルコンの織物文化館(京都市左京区)には、一枚の断機がある。下部分だけ残る壁掛け「春郊鷹狩」(原画・澤部清五郎、写真)は宮内省の依頼を受けて製作したもので、明治宮殿に納めるはずだった。
 構想、試し織り段階から長い年月をかけて丁寧に作業を進めていた1921年。当時堅ろう度が高いドイツの染料を使っていたが、第一次世界大戦中だった時代背景もあり染料が不良だったと製作途中で気付く。職人が見て退色の兆しがやっと分かる程度で、素人には分からない微妙な色の差。やりなおせば納期には到底間に合わない。このまま続けるか、申告するか。3代川島甚兵衛氏の妻、絹子さんは夜中まで悩んだ。
 その夜、絹子さんは独断で製作中だった壁掛けを裁断したという。ことの重大さを知りながらも「信頼」を選んだのだ。「独断なら自分だけ責任を負えば済む」。そんな思いもあっただろう。職人にしか分からない微妙な色の差だけに、心の葛藤もあったに違いない。
 翌日、絹子さんは宮内省に説明に赴き、不良染料を使ったことに原因があるとの反省から即座に染料実験室を設置した。その後織機を新調し、染料の品質を確認して再開。2年後に改めて製作した壁掛けが納品された。裁断された壁掛けは「断機の戒め」として、妥協を許さないモノ作りの精神とともに現在も受け継がれる。(E・M)
2007年11月16日(金)  06:25  / この記事のURL